第十五話「虫に刺された美少年」
すすり泣くKくん…
病室の外では僕とKくんのお父さんが声を荒げている
会長と話しているらしい、やがて言い争うような声は遠ざかった…
「Kくん…僕どうしたって?」「う・うん・あのね」
「KENNちゃん?本当に覚えてないの?」「うん」
「ダウン…無理矢理何回か起こされたでしょ?」「…」
「最後のダウンの前にKENNちゃんレフリーに抱き起こされて…
そしたらまるで生き返ったみたいに相手に向かっていったんだ…」
「え?」
「きちんと右のジャブから攻めていって…」
Kくんはここまで話すと涙声になった。「どうしたんだよ!」
「う、うん、でもやっぱり相手の子に物凄いボディーもらっちゃって…
ダウンしちゃいそうなところをね、ダッキング?…」「で?」
「ロープにもたれかからされて…あとは…あとは…」
「僕、メッタうちにされたんだろ…泣くなよKくん」「だって…」
「KENNちゃんうつ伏せにダウンして…血が一杯出ちゃって…
相手の子物凄く興奮して…KENNちゃんの顔、ひどいよ…」
「なに?」
「シューズで…それからKENNちゃんダウンしてるのに蹴飛ばして
仰向けに起こしてトランクスの上に…」
「脚乗せてガッツポーズしてたんだろ?そこは覚えてるよ」
「ひどいよ…ひどいよ…」
「Kくんも途中から覚えてないの?」「うん…」
「でも、あんなにダメージひどいのに僕のこと応援にきてくれて…僕、僕…」
またシクシク泣き出してしまったKくん、僕はできる事なら思いっきりKくんを…
しばらく2人は病室で黙ったままになった。そこへ僕とKくんのお父さんが…
「KENN、頑張ったみたいだな」「…」
「学校のことは心配しなくていい、Kくんのお父さんと先生にきちんと言っとくから」
「ボクシングで、なんて言わないで…」
なんだか、当り障りのない話をして、パジャマとお菓子を置いてまた出て行った。
「ねえ、KENNちゃん、もう辞めていいって…」
「ボクシング?よかったじゃん!もうやめようぜ…」
僕はKくんが『うん、もうやめる!』と言うものだとばかり…
「うん、KENNちゃんは辞めるの?」「え?」
意外な答えに僕はどう反応していいのか分からなかった。
あんなに嫌がっていたのに、こんなにひどい目に遭わされたのに…
僕はできるだけボクシング以外の話をはじめた…
看護婦さんが来た、「ねーえ?2人とも気分とか悪くないよね?」
「は…はあ…」
「先生が、頭は心配なし!だって。良かったね!」
「もし、気分悪かったりしたらすぐそのボタンでお姉さん呼びなさいね!」
「はい…」
「あ!トイレぐらいは1人でね!でも一緒に行ってあげてもいーよ」
「じゃーね可愛いボクサーちゃんたち!」
「フフッ…」Kくんが笑った!
「あの人変だな!」
僕はそう言うとなんだか安心したような不思議な感じがした。
やがて、僕もKくんもダメージから、あんなにお腹が空いていたのに
まるで泥のように眠りに落ちてしまった…
「う…う」夜中にKくんのうなされる声で目が…
その声を聞いて昨日のリングでのKくんの凄惨な姿がよみがえった、そして
ダウンした自分の惨めな姿も脳裏に浮かんだ、例の不思議な興奮がまた…
心臓がドキドキしてしばらく寝付けなくなった。
それに、1回起きたらやっぱり体中が痛い…
『Kくん、まさかボクシング続ける気なのかな?』
僕だって正直、辞めたくて仕方がなかったのに今の気持ち…
練習試合でダウンをさせたときの興奮…
そして、Kくんと2人で一杯の人たちの前でやったスパーリングと歓声…
真っ白いトランクスとシューズ…グローブに拳を入れる時の気持ち…
それから…
『そういえばKくん、勝ったことなかったっけ…』
続く
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